渡辺 陽一 ナポリ料理ブログ

郷土料理を愛してやまないイタリア料理人https://www.instagram.com/watanabe_yoichi_/

トルタ カプレーゼ(Torta caprese)

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カプレーゼと聞くとみなさんあのトマトとモッツァレラチーズの前菜を思い浮かべるのではないでしょうか?それぐらいカプレーゼは今日、日本において知名度の高い前菜ですが実はインサラータ カプレーゼ(Insalata caprese)=カプリ島風サラダの意味というのが正式な名称でイタリア語のサラダの部分を省略してカプレーゼと呼ばれているのです。

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カプリ島 青の洞窟

さて同じカプレーゼでも今日はドルチェのカプレーゼについてお話ししたいと思います。このお菓子はトルタ カプレーゼ(Torta caprese)=カプリ島風ケーキという名称で見た目はガトーショコラの様に見えますが味わいは全く異なります。ガトーショコラとの違いですが、まずこのカプレーゼにはアーモンドがふんだんに使われていることでしょうか、またガトーショコラには少量の小麦粉が入りますがこちらには全く使用されません。アーモンド、チョコレート、卵、バター、砂糖とシンプルな材料でしっとりと焼き上げます。またバリエーションとして白いカプレーゼ(Torta caprese bianca)とかレモンのカプレーゼ(Torta caprese al limone)呼ばれるレモン風味のものも作られています。カプリ、ソレントやアマルフィ地方はレモンの産地ですからね。

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レモンのカプレーゼ

このお菓子の起源について調べてみるとやはり色々な逸話があるようでとても面白いです。その中でも特に私が気に入っているものが二つありますのでご紹介したいと思います。

一つ目はアメリカのギャング アルカポネにまつわる話でそれは1920年代に遡ります。ナポリにルーツを持つニューヨークカモッラとの関係を強化するためにアルカポネは信頼できる手下達をナポリに派遣しました。彼らはビジネスのかたわら観光旅行も楽しんだのですが、カプリ島でその頃一番人気のあったカルミネ ディ フィオーレ(Carmine Di Fiore)の有名なパティスリーを訪れてそこでボスのために特別なお菓子を作るようと彼に命じました。それを聞いたカルミネは驚きと怖さのあまりその特別なアーモンドチョコレートケーキに何と小麦粉を入れ忘れてしまったのです。幸いにして手下達はこのしっとりしたケーキに大満足してくれたのですがカルミネはこのミスがバレないようにとその後も生涯嘘をつき続けるために自分の店でも小麦粉なしのアーモンドチョコレートケーキを提供したとのことです。それが今では世界中で愛されるトルタ カプレーゼとなったという話です。

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もう一つはハプスブルク家のマリア カロリーナ女王(Rregina di Napoli, Maria Carolina d’Asburgo)にまつわる話で18世紀に遡ります。マリア カロリーナ女王はあのフェルディナンド4世(Re Ferdinando IV)の王妃で彼女はオーストリア人でしたので大好きなザッハートルテ - Wikipediaがナポリにないことを知ってかなりのショックだったそうです。そこで何とかお抱えのシェフ達⇒モンズ(Monsù,Monzù)に作らせようとしたのですが当然彼女がレシピを知っている訳でもなく、またフランス人シェフ達も誰も食べたことのないお菓子でしたので試行錯誤を重ねた末に小麦粉を入れないこのドルチェが出来たという話です。

ただここで考えてしまうのはザッハートルテが生まれたのが1814年または1832年とされていることです。そうだとするとマリア カロリーナ女王(1752年-1814年)はザッハートルテを知らなかったことになるのです。つまるところ何が本当の起源なのかは分かりません。

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ザッハートルテ

トルタ カプレーゼ材料

基本の材料:

 アーモンド(皮なし)

 チョコレート

 卵

 バター

 砂糖

その他の材料(バリエーション):

 くるみ

 ココア

 ストレーガーリキュール

 ノチェッロリキュール

ピッツァ(Pizza napoletana)

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ピッツァ マルゲリータ

イタリア料理の中でも少しジャンルが異なるものとして位置付けられるのがピッツァです。カジュアルで場所や時間を選ばない食べ物でありそれだけで完結する食事でもあります。

通常イタリアでは高級レストラン(Ristorante)、庶民的なトラットリア(Trattoria)を問わずメニューにピッツァはありませんし逆にピッツェリアに行ってもパスタやメインディッシュなどのお料理はありません。ただナポリだけはちょっと特殊で高級なレストランでもピッツァを出しているところがあります。リストランテ ピッツェリア(Ristorante Pizzeria)という業態がこれにあたります。この業態ではピッツァだけを食べるもよし、またレストランで食事をする時にピッツァを取るのもよしと、とても使い勝手がよいと思います。

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きのこと生ハムのビスマルク

このピッツァを日本料理に例えるとその形状からお好み焼きの様だと言う人もいることでしょうが私はラーメンやお蕎麦、うどんに近い感覚ではないかと思います。その理由ですがこれらの麺類はどの時間帯でも食べられて普通一人一品を食べることや、それだけで食事が完結することがあげられます。また複数人で食べに行ってもあまり他人とシェアーなどしませんよね。各々好きなものを頼んで最後まで一人で食べませんか?これって正にピッツァと同じ食べ方なのです。いい和食屋さんでは通常お蕎麦はメニューにないですが稀に蕎麦を打てる職人さんがいて〆に出してくれるところがありますよね。そんなところもピッツァに似ていると思うのです。あとナポリのピッツェリアにはコーヒーがないことが普通ですがラーメン屋さんにも同じことが言えるのではないでしょうか?

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そんなピッツァの発祥の地はもちろんナポリです!庶民の生み出した素晴らしいローカルフード、ストリートフードと言っても過言ではありません。現に今でもナポリに行けばピッツェリアの店頭で焼きっぱなしの小ぶりなピッツァが一枚1~2ユーロで販売されています。もちろんモッツァレラは一切れしか乗っていませんがおやつとしてはこれで十分ですね。

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この小ぶりなピッツァですが一般的にイタリアでは朝ご飯を食べない人が多いのでお昼前になると小腹が空いてきてこれを目当てにやって来ます。(ナポリでの昼食は割と遅く14時ごろなのです。)お腹が空いた時にいつでも気軽に立ち寄ってパッと食べられる便利な文化ですね。ちなみにこの小ぶりなピッツァですがテイクアウトボックスには入れてくれません。それでは立ち食いしにくいですし値段も高くなってしまいますからね。ピッツァは折りたたんでわら半紙にくるんで渡してくれるのです。このテイクアウトのスタイルをピッツァ ア ポルタフォーリオ=お財布の意味 (Pizza a portafoglio o Pizza a libretto) なんて呼びます。

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もっと沢山ピッツァのお話をしたいところですがキリがありませんのでこの辺で終わりにしますが、ご興味のある方はパルテノペに来ていただいた際に私が書いた単行本がありますので一度ご覧になってみて下さい。ピッツァの歴史からその製法、食べ方やマナー、本物のナポリピッツァとは、真のナポリピッツァ協会などが詳しく書いてあります。

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そんなピッツァは世界中で食べられているイタリア料理界の代表選手だと私は思っています。

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真のナポリピッツァ協会認定看板 Buganville広尾

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真のナポリピッツァ協会認定看板 Partenope

 

じゃがいものニョッキ ソレント風(Gnocchi alla sorrentina)

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ニョッキは日本でもイタリア料理店でよく見かけるメニューで人気のお料理ですね。ご存じの方も多いと思いますがニョッキは様々な材料で作ることができます。イタリアでも一般的なニョッキはじゃがいもで作ることが多いのですがビーツを混ぜたものやほうれん草を混ぜたもの、またじゃがいもの代わりにかぼちゃを使ったりとバリエーションは多いです。

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じゃがいもとほうれん草のニョッキ

古典的なものでは野菜を使わない小麦粉だけを練るニョッキ(Gnocchi di farina)やそば粉と小麦粉 (Gnocchi di grano saraceno)、パンと小麦粉(Gnocchi di pane raffermo)、また栗の粉と小麦粉(Gnocchi di castagne)で作るものなども存在します。その他、ローマ風ニョッキ(Gnocchi alla romana)と呼ばれているものはセモリナ粉を牛乳で練って作ります。

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ローマ風ニョッキ

変わったところではリコッタチーズとほうれん草のニョッキ(Gnocchi di ricotta e spinaci)なんてものもあります。ローマでは古くから木曜日はニョッキ、金曜日は魚、土曜日はトリッパを食べる日(Giovedì gnocchi, Venerdi pesce, Sabato Trippa)という習慣があって現代社会ではその習慣も薄れているようですがそれぐらいニョッキが庶民の間で一般的なものだということが伺えますね。

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さてじゃがいものニョッキ ソレント風ですがソレント風の定義としてトマトソース、モッツァレラ、バジリコで作るということがあります。同じ材料でも加熱をしない生のトマトに代わるとカプレーゼとなります。あの有名なトマトとモッツァレラのサラダ(Insalata caprese)ですね。ソースはトマトソースであればいいのでにんにくとホールトマトで作った簡単なソースでもいいですがレストランなどではよりコクのあるナポリ風ラグーを使うことが多いです。このソースでニョッキと和えてバジリコとモッツァレラ、パルメザンチーズを加えれば完成です。

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そのままでもちろん美味しいのですが耐熱皿に入れてオーブンに入れてグラタンにしても見栄えがいいですね。もっと手の込んだ提供の仕方としてはくり抜いたナスを予め揚げておいて中にニョッキを詰めてオーブンで焼くという方法もありこの演出はとても喜ばれます。

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ナスの船に乗ったじゃがいものニョッキ

じゃがいものニョッキ ソレント風材料

ニョッキ:じゃがいも

     小麦粉

     卵

     パルメザンチーズ

     ナツメッグ

     塩

 

ソース :ナポリ風ラグーまたはトマトソース

     モッツァレラチーズ

     パルメザンチーズ

     バジリコ

     塩

パスタ エ ファジョーリ(Pasta e fagioli)

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ムール貝入りパスタ エ ファジョーリ

私がナポリ料理の中で好きなものの上位にランキングするのがパスタ エ ファジョーリ(白いんげん豆とパスタのスープ煮)です。イタリアでは伝統的にどの地方でも豆料理をよく食べますがナポリおいてはこの料理がダントツに人気があります。イタリアで豆といえば白いんげん豆以外にも、うずら豆やひよこ豆、そしてレンズ豆、そら豆など地方によって好みや食べ方が違います。例えば豆食いで有名なトスカーナではただ茹でただけの白いんげん豆をメインディッシュの添えにしたりブルスケッタの具材にしたりもします。ちなみにその時の味付けは塩とオリーブオイルだけです。本当にシンプルな豆の味を楽しみたいのですね。

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柔らかく煮上がった白いんげん豆

さてこの料理ですが絶対に守らなければならないことが一つあります。それは豆がしっかりと煮えていることです。これはイタリア全土でもいえることなのですが豆を茹でる時に芯を残してはいけません。その加減は嚙まなくても舌でつぶれるぐらいまで茹でるということです。そこまで茹でると当然ながらいくつかの豆はつぶれてしまいますがそれでいいのです。例外的に豆を前菜などに使うときは形が残る程度に茹でることもありますが基本的に豆はしっかり茹でるというのがお決まりなのです。これって簡単なことなのですが日本で美味しい豆料理に出会うのはなかなか難しいですよ。

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パスタ エ ファジョーリ

この料理の作り方ですがにんにくとセロリ、チェリートマトを炒めてから既に茹で上がった白いんげん豆を加えて更に煮込みます。味付けは塩とオリーブオイルのみで好みでバジリコやイタリアンパセリも加えます。また黒コショウをかける人もいます。このままでもスープとして食べますがナポリでは圧倒的にパスタを入れたものが人気です。その際に使うパスタで代表的なものはパスタ・ミスタ(Pasta mista)と呼ばれるミックスパスタです。そもそもは台所に残っていた色んなパスタの残りを寄せ集めて使った生活の知恵でしたがあまりの人気のために今ではパスタメーカーがわざわざそれを作って販売しています。

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パスタ ミスタ

その他にもマカロニを小さくカットした形状のパスタ、トゥベッティ(Tubetti)やディターリ(Ditali)なども好まれます。またこの料理の仕上げ方には好みがあってスープ状に仕上げるのが好きな人、ほとんど水分がなくなるまで絡めるのが好きな人など様々ですのでお店によっても提供のスタイルが異なります。私はムール貝を加えた特別バージョンが好きでムール貝がある時にはこのスタイルで提供しています。

 

パスタ エ ファジョーリ材料

白いんげん豆

にんにく・セロリ

チェリートマト

バジリコ・イタリアンパセリ

オリーブオイル

コショウ(好みで)

パスタ・ミスタ

牛肉のピッツァヨーラ(Carne alla pizzaiola)

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牛肉のピッツァヨーラ

このピッツァヨーラという料理はクラッシックなナポリ料理ですが今ではあまり日本のレストランで見られなくなったメニューではないでしょうか?ピッツァヨーラとはピッツァ職人のことでソースの材料がピッツァに使われるものだからという理由で名前がついています。この料理、にんにくベースのトマトソースにオレガノで香りをつけて牛肉を調理したものですがイタリア料理の世界ではこのソースのことをマリナーラソース(Salsa marinara)といいます。確かにあのピッツァ マリナーラの材料ですね。またこのソースは魚介類の調理に適していているといわれており魚介類をさっと煮たりフライものに添えたりもします。

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さてこの料理の調理法は大きく分けて二種類あります。一つは初めにソースを作っておいてそこに牛肉を入れてさっと火を入れる方法です。これはそのまま食べても美味しい部位の牛肉が適しています。例えばもも肉やロース肉、ひれ肉などの部位です。その場合お肉をソテーしてからソースと合わせてもいいですし、お肉を焼かないで直接ソースに入れてその中で加熱するというやり方もあります。これらのやり方ですとお肉に完全に火を入れないしっとりとした仕上がりを得られます。そしてもう一つの方法ですがやや固い部位のお肉を使ってソースの中で少し煮て柔らかくするというものです。どちらのやり方も間違いではありませんが庶民的なやり方といえば後者の方でしょうか?私はイタリアの家庭でピッツァヨーラをよく見ましたが後者のやり方が多かったと記憶しています。前者のやり方はどちらかというとレストラン向きのやり方で柔らかいお肉を使えば短時間で作れますのでより実践向きですね。あとピッツァヨーラは牛肉だけでなく豚肉でも作られます。ソースも玉ねぎを入れたり黒オリーブやケイパー、唐辛子を加えるレシピもあるようです。このようなベーシックな料理はいつの時代でもイタリア人にとっては忘れられない家庭の味なんだと思います。たまに食べると本当に美味しいですよ。

 

ピッツァヨーラ材料

牛肉

にんにく

ホールトマトまたはパッサート

イタリアンパセリ

オレガノ

ムール貝のリングイーネ(Linguine alle cozze)

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ムール貝のリングイーネ

このパスタはあさりのスパゲッティの兄弟分ともいえるほど同じ作り方をする料理です。日本ではその昔ムール貝を誰も食べなかった様でイガイとかムラサキガイと呼ばれていましたが洋食が流行るにつれて段々とメジャーになってきました。イタリア料理はもちろんのことスペイン料理でもよく使われておりお好きな方は多いのではないでしょうか。

ナポリ料理では代表的なものとしてムール貝の黒コショウ蒸し(Impepata di cozze)や香草パン粉を乗せたオーブン焼き(Cozze gratinate)などがありますがプーリア地方の郷土料理でジャガイモ、ズッキーニと共にオーブンで焼くティエッラ(Tiella barese)という料理もムール貝の出し汁がいい仕事をしていてとても美味しいです。

このパスタですがにんにくを炒めたフライパンにムール貝とチェリートマト、イタリアンパセリを加えて蒸し焼きにします。ちなみにここで白ワインを入れる人もいますが私は入れません。ワインの風味は嫌いではありませんがなるべく貝本来の味を楽しみたいと思っています。貝の口が開いたら一度外に取り出して残った出し汁を煮詰めます。あさりと違ってムール貝はたくさんの海水を蓄えていますので結構な量の水分が出るからです。ただあさりと違って砂を取り込むことはありませんのでその心配はいりません。

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あさりとの違いはムール貝にはヒゲ(足糸)がありますのでそれを除去しなくてはならないことですが、生きている時は口を固く閉じていて簡単に取れませんので加熱して口が開いてから取っても大丈夫です。加熱前のムール貝のヒゲは指でつまんで殻に沿って引っ張ればスッと抜き取れそうですがこれが簡単ではありません(笑)。 大抵の場合、殻の外に出ている部分だけがちぎれてしまうのです。このヒゲはムール貝が海流に流されないように防波堤や岩礁に付着するためについているものなので貝から簡単には抜けないようになっているのです。ではどのように取ればいいのかといいますと実は確実にヒゲが取れる方法があるのです。それはムール貝の貝殻の合せ目を手の中でほんの少しずらして隙間を作ってヒゲを抜き取るというものです。スムーズに取れない時はヒゲを上下にずらして引っ張るといいですよ。この方法ですとほぼ間違いなく貝の根本からヒゲを抜くことが出来ます。

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ムール貝のリングイーネ材料

ムール貝

にんにく

チェリートマト

イタリアンパセリ

オリーブオイル

唐辛子(お好みで)

スパゲッティ

あさりのスパゲッティ(Spaghetti alle vongole)

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あさりのスパゲッティほど広く知られているイタリア料理はないのではないでしょうか。日本でよく知られているのはヴォンゴレ・ビアンコと呼ばれているガーリックオイルベースのトマトが入らないものでトマトソースを加えたものはロッソと呼ばれているようです。ではナポリではどのように作るのかといいますと基本はヴォンゴレ・ビアンコとよく似ていますが異なる点はチェリートマトを数個加えるということでしょうか?そうすることで見た目はほんのりピンク色になってトマトの風味も加わりますがトマトソースではないので、あさり本来の味も十分生きた仕上がりとなるのです。

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このナポリ風の作り方はとても美味しいだけではなく様々なメリットがあると思います。まずほんの少しのトマトが入ることであさりの塩分を和らげてくれます。貝類はその時々で塩分が強いことがあり調理には注意が必要なのですが、そんな時トマトはバランスをとってくれる大きな味方になるばかりかソースの乳化もしやすくなります。トマトなしの場合はガーリックオイルとあさりの出し汁だけでパスタを和えなくてはなりませんので美味しく作るにはソースを乳化させる技術が必要となります。水分を全部吸わせてしまうとパスタに旨味はしみ込みますがパサついた仕上がりになってしまいます。しかしトマトが入ることでトマトの酸とオイルで乳化がし易くなり仕上がりが良くなるのです。

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乳化といえば今から20年以上も前に私がナポリで働いていた時に職場の先輩が面白い話しをしてくれたことを思い出しました。それは「美味しいヴォンゴレを作るにはどうしたらいいか知っているか?」というものでした。何でも有名なレストランのシェフに聞いた㊙情報だということでかなり期待をしたのですが、その答えはたわいもないもので何と少量の小麦粉を加えるというものでした。確かにソースに濃度がついてパスタを絡めやすくなるという意味は分かるのですがさすがに小麦粉はないでしょう?と言いたくなりました!でも料理の勉強のためにとせっかく教えてくれたことですのでその時は驚いた顔をしたことを覚えています。本当に驚いたのは事実でしたが。

 

あさりのスパゲッティ材料

あさり

にんにく

チェリートマト

イタリアンパセリ

オリーブオイル

唐辛子(お好みで)

スパゲッティ

ラグーとリコッタ和えマンフレディ(Manfredi con ragù e ricotta)

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このマンフレディという両端にひだのついたロングパスタにはとても多くの名前がありパスタメーカーごとに名前が違っていて笑えます。マンフレディ、マンフレディーネ、マファルダ、マファルディーネ、リッチャレッリ、レジネッテ、ラザニエッテ、フェットゥッチェッラ リッチャ(Manfredi, Manfredine, Mafalda, Mafaldine, Ricciarelli, Reginette, Lasagnette, Fettuccella riccia)というように。そして形状がとても似てますがパスタの片側だけに波状の模様がついているものはトリポリーネ(Tripoline)なんて名前がついています。ちなみにこのトリポリーネは茹でると丸まって可愛いらしく食感もいいので私はこのパスタを使っています。

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このパスタの名前に関してはサヴォイアのマファルダ王女(Principessa Mafalda di Savoia)にちなんでそう呼ばれたとかスワビアのフェデリコ2世の息子マンフレディ シチリア王(Re Manfredi di Sicilia)にちなんでそう呼ばれたなど諸説があります。

このパスタはパッケリ(Paccheri)などと共に南イタリアらしい乾燥パスタですがナポリでは特に人気がありマンフレディといえばナポリ風ラグーとリコッタチーズ和えと言われるほど定番の組み合わせになっています。まるでペンネ アラビアータ(Penne all’arrabbiata)のようですね!もしラグーがない時は裏ごししたホールトマト(Pomodori pelati)やパッサート(Passato di pomodoro)で作ったトマトソースで代用することもできますが、やはりラグーで作った方がソースのコクが違いますのでより美味しくなります。

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作り方はいたって簡単で温めたラグーにリコッタチーズを溶いてパスタと和えるだけです。最後にパルメザンチーズやバジリコを加えて仕上げますが、この料理はリコッタチーズが主役ですので美味しいものを選ぶことがポイントになります。家庭ではリコッタチーズが手に入らないと思いますのでカッテージチーズで代用してみて下さいね。

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ラグーとリコッタ和えマンフレディ材料

ナポリ風ラグーまたはトマトソース

リコッタチーズ

パルメザンチーズ

バジリコ

黒胡椒

ジェノヴェーゼ (Genovese napoletana)

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ズィーティ のジェノヴェーゼ

ナポリ料理においてナポリ風ラグーと同じぐらい重要な料理といえばジェノヴェーゼではないでしょうか。日本において一般的にジェノヴェーゼといえばペースト・ジェノヴェーゼ(Pesto alla genovese)が有名なのですがナポリにおいては牛肉の玉ねぎ煮込みのことを指します。この料理の由来には諸説がありますが、その昔ナポリ港にはジェノヴァ人の経営する食堂がたくさんありそこで振舞われていたのがこの料理だったという話やジェノヴェーゼというニックネームで呼ばれていたナポリ人シェフが考案したからなどともいわれています。何と14世紀のナポリ料理本に玉ねぎと肉で調理されたものが出ているそうですから古くからあったことがうかがえます。

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この料理もラグーと同じくお肉をメインディッシュとして食べるもので、そのソースでパスタも食べます。ですからナポリのオステリアなどでこのパスタを注文するとお肉がほとんど入っていないことが普通なのです。日本においてはそれではお客さんが怒ってしまいますからちゃんとお肉も入っていますけどこれがイタリアの文化なんですね。

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さてこのジェノヴェーゼの作り方ですがまず大鍋で牛すね肉などの煮込み用部位をソテーします。そしてそこに人参とセロリを刻んだものとたっぷりの玉ねぎを加えます。その後トマトペーストと白ワインを加えたらお肉がひたひたになるくらいの水を入れて後はひたすら煮込むだけというものです。私が働いていたナポリのお店では骨付きの生ハムを掃除した際に出る骨も入れて煮込んでいました。ソースにコクを出すためにオリーブオイルではなくラードを使う人や豚肉を入れる人もいます。

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ジェノヴェーゼ

このソースをパスタで頂く時には通常ズィーティ(Ziti)と呼ばれる小指ぐらいの太さの長いマカロニを折って和えることが多くナポリでは定番の組み合わせです。他にはペンノーニ(Pennoni)という大型のペンネやパッケリ(Paccheri)なども好まれます。ただ日本ではどれも手に入りにくいのでリガトーニ(Rigatoni)などと和えてもいいでしょう。お店ではズィーティまたはワンサイズ太いカンデーレ(Candele)というパスタで提供しているのですが、とてもナポリらしい料理で私は大好きです。

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カンデーレのジェノヴェーゼ

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ズィーティ、カンデーレなどナポリのマカロニいろいろ

 

ジェノヴェーゼ材料

牛肉(煮込み用部位)、好みで豚肉

玉ねぎ(肉と同量程度)

人参・セロリ(好みで)

白ワイン

トマトペースト、トマト(好みで)

ローリエ・バジリコ

オリーブオイル

塩・黒胡椒

ズィーティなどの太いマカロニ

パスティエラ (Pastiera)

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ナポリ料理を語る上で最初に外せないのがナポリ風ラグーだとするとお菓子ではパスティエラではないでしょうか?これほど特徴的で素晴らしいお菓子はイタリア全土を見渡してもないと思います。イタリアの復活祭パスクア(Pasqua)にかかせないこのお菓子、一度知ってしまうとやみつきになるいい香りがするのですが、初めて食べる人には衝撃的な香り?なので好き嫌いが分かれるかも知れません。その香りはオレンジの花の水(Acqua di fior d’arancio)というもので日本ではあまり馴染みがないものですが、欧州では古くから香水にも使われているものです。南イタリアのお菓子には伝統的に様々な香りが使われてきました。レモン・オレンジ・バニラ・シナモン・ナツメッグ・クローブ・ストレーガ酒・ラム酒というように柑橘類の香りからスパイス・リキュールまでお菓子作りに香りは不可欠のようです。

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グラノコット

さてこのお菓子には様々な言い伝えがありナポリを象徴するパルテノペというセイレン(Seiren)にまつわる話が多いようです。

*セイレン(Seiren):ギリシャ神話に登場する上半身が女性、下半身が鳥の姿とされる魔物

人々が小麦、リコッタチーズ、卵、オレンジの花、砂糖などをセイレンへの捧げものとして贈ったところ神々がそれらの材料でパスティエラを作ったといわれています。このお菓子はまずタルト生地(Pasta frolla)が敷いてあり、その中にグラノコットという茹で小麦(Grano cotto)とリコッタチーズ、卵、砂糖を混ぜ合わせてオレンジピールやオレンジの花の水、シナモンを加えたものを詰めた上にタルト生地をリボン状にかけてオーブンで焼きます。

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焼成前のパスティエラ

その昔は茹でたスパゲッティを入れたり茹でた米を入れたりしたこともあるようです。出来上がったパスティエラですが人によっては翌日が好きという人や3日経った頃がしっとりして一番美味しいという人など好みが分かれるようです。通常、中身は十分しっとりしていますが中には水分たっぷりでかなり柔らかいものまでレシピは様々です。このお菓子は元々、復活祭の頃に食べられていましたがナポリ人があまりにも好きなので今では一年中いつでも食べられます。

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パスティエラ材料

リコッタチーズ

茹で小麦

砂糖

オレンジピール

オレンジの花の水・シナモン

タルト生地

ナポリ風ラグー (Ragù napoletano)

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肉類のラグー煮

ナポリ料理を語る上でまず最初に外せないのがこのナポリ風ラグーではないでしょうか。一般的にラグーというとボローニア風(Ragù alla bolognese)、すなわち挽肉を煮込んだミートソースが有名ですがナポリでは塊肉を使います。このラグーはナポリ人にとってまさにおふくろの味といった家庭の味で家ごとに、またレストランごとに作り方が異なります。その歴史は18~19世紀に遡ります。その頃のナポリは両シチリア王国(Regno delle Due Sicilie)の支配下にあり貴族たちはこぞってフランス人シェフを雇っていたのです。その彼らはモンズ(Monsù,Monzù)と呼ばれておりその言葉の由来はフランス語のムッシュ(Monsieur)がナポリ語やシチリア語の方言でそうなったといわれています。彼らはナポリ料理革命を起こした英雄として今でも語り継がれています。

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さてナポリ風ラグーの作り方ですがお肉は牛肉のすね肉や肩肉、ばら肉など煮込み用の部位が使われます。また豚肉のスペアリブを一緒に煮込むことが多く適度な脂肪分をソースに与えてくれますのでコクが出ます。その他ブラショーラ(Braciolaのナポリ方言)と呼ばれる牛肉ロールや豚皮のロール、サルシッチャなども一緒に煮込むことが多くレシピが多数あるのもうなずけます。お肉を柔らかく煮込むのにはホールトマトを裏漉したり、パッサート(Passato di pomodoro)と呼ばれるすでにトマトを裏ごして瓶詰めになっているものや、トマトペーストが使われます。ひとたびお鍋の中のソースが沸騰したら後はごく弱火にしてソースの表面が暴れないように注意しながら数時間かけてゆっくり煮込みます。イタリア語ではパイプの煙をくゆらしているという表現をします。このラグーで煮込んだ肉類はメインディッシュとして日曜日に家族が集まる時の定番料理なのですがパスタのソースとしてやラザニアやナスのチーズ焼きなどに幅広く使われナポリ料理には頻繁に登場します。変わった食べ方としては茹でたお米にこのラグーをかけて食べるというものでしょうか。お米にラグー、バター、パルメザンチーズだけをかけたものを初めて見た時は本当にびっくりしました。イタリア人にとってお米は正にパスタと同じなのだと思いました。

 

ナポリ風ラグー材料

牛肉(煮込み用部位)

豚肉スペアリブ

玉ねぎ

白ワインまたは赤ワイン

ホールトマトの裏ごししたもの

トマトペースト

ローリエ

オリーブオイル

ババ(Babà al rhum)

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ナポリ菓子を語る時に私はよくパスティエラがナポリの代表選手だと話しますが、ババもそれと並んでとてもナポリらしいお菓子です。ババの起源は16~17世紀頃、クグロフをお酒で浸したポーランド生まれのバブカ(Babka Ponczowa)だといわれています。バブカと言っても近年話題となったチョコレートを練り込んだパンのバブカとは違います。その後「アリババと40人の盗賊」に出てくるアリババにちなんでそう呼ばれるようになり、更に18世紀にフランスのロレーヌ地方を経由してナポリの貴族に仕えるフランス人シェフ達、モンズのお陰でナポリに辿り着いたとされています。ナポリに伝わるまでにはかなりの年月がかかっているのですね。

*モンズ(Monsù)についてはナポリ風ラグーをご覧ください。

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ババ(発酵した生地)

ババを一言でいえばブリオッシュ生地にラム酒のシロップを浸み込ませたものでフランス菓子のサヴァラン(Savarin)にとても良く似ています。サヴァランとの違いはその形状ぐらいに見えますね。このお菓子の魅力と言えば弾力のあるスポンジのような生地にラム酒のシロップがたっぷり浸み込ませてあって食感がとてもしっとりしていることでしょうか。甘いものが苦手な男性にもとても人気があります。ナポリではクリームのない生地だけのシンプルなものからカスタードクリームとアマレーナチェリーのシロップ漬けをトッピングしたものや生クリームとフルーツを飾った物などがあります。

ちなみにキノコ型でない丸いババをナポリではサヴァリン(Babà Savarin)とかパリジーナ(Parigina)などと呼びます(下のプルチネッラの写真をご覧ください)。近年ではココアを加えた黒い生地のものやラム酒ではなくリモンチェッロに浸したものなど様々なバリエーションが存在します。またお土産屋さんでは海外へ持っていくのに便利なミニババを漬込んだ瓶詰めも販売されています。

ナポリで見つけたババとプルチネッラの人形

最後にナポリ人にとってのババには実はもう一つの意味があることをご紹介しましょう。それは「彼はババのようにいい人だ」と人を褒める時に使うことです。ババのような人?と思いますがナポリ人にとってババはそれぐらいみんなに好かれていて人々を幸せにしてくれるものということなのでしょう。よくイタリアではいい人のことをパンの様な人という言い方をしますがナポリではババになるわけです。私はこのナポリらしい表現がとても好きです。

美味しそうに焼きあがったババ(シロップに浸す前)

 

ババ材料

強力粉

マーガリン

イースト

砂糖

ラム酒

ナポリ料理とは(La cucina napoletana)

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あさりのスパゲッティ

イタリア料理とは?といわれてまず皆さんが最初にイメージするのは、あさりのスパゲッティやピッツァ、カプレーゼといったものではないでしょうか?これってイタリア料理の代表的なものばかりですが実は全てナポリ発祥なんです。実際これらの料理はナポリでもよく食べられていて海辺のレストランではあさりのスパゲッティが一番人気ですしピッツァを毎日のように食べる人も少なくありません。どこの家でもにんにく、トマト、バジリコ、モッツァレラチーズといった食材は毎日のように使われています。でもほとんどの料理ににんにくを使うのに料理がにんにく臭いといったことはありません。それは他の食材を引き立てるために料理のベースに使っているからなのです。

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ピッツァ マルゲリータ

その昔私がナポリに住んでいる時によく耳にしたことで「ナポリ料理は決して贅沢な材料は使わないけどサポリート(Saporito)でしょう?」という言葉があります。サポリートとは「美味しい、味がいい」という意味なのですがこの言葉には素材がいい、調理法がシンプルでいいという意味が隠れているのです。実際ナポリの人たちは葉っぱ食い(ちなみにトスカーナ人は豆食い)と言われるほど葉物野菜が大好きなのですがその調理法はいたってシンプル、ただにんにくで炒めるだけといったものや揚げてトマトソースと和えるだけのものが多いのです。味付けもほとんどの場合が塩だけです。ナポリだけでなく南イタリア全土においてもいえることですが野菜をたくさん食べるということが特徴です。

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フリアリエッリのソテー

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ムール貝入りパスタ エ ファジョーリ

またトマトの使い方が上手なのもナポリ人の特徴だと思います。たとえが良くないかもしれませんがそれは日本人が醬油を使うのに似ていると私は思います。皆さんが和食を作る時に醤油の量を加減して使いますよね?お魚の煮つけには真っ黒になるぐらいたくさんの醤油を使い八方だしの時にはほんの少量しか加えないと思います。つまり醤油はその味や色を前面に出したくて使う場合と風味付けに使う場合があると思うのです。ナポリ人にとってのトマトは正にその感覚と同じでトマトをたっぷり使ったソースもあればあさりのスパゲッティの様にチェリートマトを何個か加えるだけという使い方もあるのです。その他、夏に収穫して春まで軒先に吊るして自然乾燥させて使うトマト(Pomodorini Piennolo del Vesuvio)があったりとナポリ人はトマト使いの達人です。

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ヴェスヴィオ産ピエンノロトマト

ではナポリ料理がどのように発展してきたのかを考えてみますとそこにはナポリが常に他国の支配を受けてきたという歴史的な背景が見えてきます。その中でも特にスペイン、フランスの支配が料理の変革に大きな影響を与えたといわれています。18世紀頃のスペイン系ブルボン家(Borbone delle Due Sicilie)のナポリ王を名乗っていたフェルディナンド4世(両シチリア国王フェルディナンド1世)の時代には貴族たちはこぞってフランス人シェフを雇っておりフランス料理文化がナポリに大きな影響を与えていたのです。その時代の置き土産として現在も多くのナポリ料理がフランス語に由来するものとなっています。

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ナスの船に乗ったじゃがいものニョッキ

例えばナポリ風ラグー(Ragù)はフランス語の[Ragout]から、ガットー・ディ・パターテ(Gattò di patate)は[Gâteau]から、クロッケ・ディ・パターテ(Crocchè di patate)は[Croquette]から、サルトゥー・ディ・リーゾ(Sartù di riso)は[Sourtout]という様にフランス語からナポリ風の料理名に変わっていったのです。ナポリ料理史はとても興味深いと思います。

ティンバッロ・ディ・マッケローニ

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パスティエラ

カザティエッロ

 

ラザーニャ (Lasagna di Carnevale)

 

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カーニバルのラザーニャ

イタリア全土にラザーニャはありますがナポリのそれはかなり豪華な作り方といえます。カーニバル時期にはもちろんのことクリスマスや年末年始の人が集まる時や復活祭時期にもよく登場します。

一般的なラザーニャはエミリア風とかボローニャ風(Lasagna emiliana, bolognese)と呼ばれベシャメルソースとミートソースで作られますがナポリにおいてはナポリ風ラグーと沢山の具材を入れて作ります。このラザーニャはカーニバルのラザーニャとも呼ばれておりイタリア全国に有名なものです。その具材とはミートボール、サルシッチャ、ゆで卵、サラミ、モッツァレラチーズ、リコッタチーズ、バルメザンチーズなどで燻製のモッツァレラチーズを使う人もいます。これだけ豪華な具材で作るのですから日本人にはこの一皿で一食が完結するぐらいの満足感があります。イタリアではもちろんこれを食べる前に前菜も食べますしその後でメインディッシュも食べるのですが・・・・

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ラザーニャ具材

さて作り方ですがまずミートボールは指の先ぐらいに小さく作ります。そして一度さっと素揚げしてからラグーと和えて味を馴染ませます。サルシッチャはフライパンで焼いたものを冷ましてからスライスします。ゆで卵、サラミ、モッツァレラチーズなどもスライスしておきます。次にラザーニャ生地はアルデンテに茹でたら氷水にとって十分に冷まします。水分を切ったらきれいなナプキンなどに挟んで余分な水分を取っておきます。

そして耐熱容器にこの生地を被せていきますが外側に大きくはみ出る様にのせていきます。何故なら最後に内側に折って閉じることでソースや具材が外に出ないようにするためです。生地を重ねる時に具材を何層かにちりばめていくのですがその際、生地の間にラグーを塗っていきます。ただその量は限定的で決してソースが主張することはありません。例えは変ですが糊代わりにソースを塗るといった感じです。ですからその後オーブンで焼いて切り分けた時にソースがあふれ出ることはないのです。このラザーニャはまだ食べたことがない人が多いことと思いますので是非召し上がっていただきたいものです。

 

ラザーニャ材料

ナポリ風ラグー

ミートボール

サルシッチャ

ゆで卵

サラミ

モッツァレラチーズ

リコッタチーズ

パルメザンチーズ

ラザーニャ生地

スパゲッティ プッタネスカ (Spaghetthi alla puttanesca)

 

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スパゲッティ プッタネスカ


このパスタはナポリが発祥と言われており日本では娼婦風のスパゲッティと呼ばれて親しまれています。18世紀の料理書にはすでにナポリ地方でよく食べられているパスタと書かれているそうです。何故この料理が娼婦風と呼ばれるようになったのかは諸説ありますが、私はいろんな材料の入ったトマトソースの味が刺激的だからそう呼ばれるようになったという解釈が好きです。このソースは簡単ではありますが丁寧に作るとそれは食欲をそそる素晴らしいものになります。

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プッタネスカ材料

もう20年以上も前のことですが私はナポリの出島イスキア島で何年か働いていたことがあります。その頃よくお土産屋さんでこのプッタネスカのレシピを書いた絵皿やタペストリーを見かけたのを覚えています。驚いたのは何とそれらにはイスキア風スパゲッティ(Spaghetti all’ischitana)と書かれていたのです!本当にこの料理がイスキア島発祥なのかどうかは定かではありませんが実際にこの料理を売りにしているレストランも島にあるようですし、少なくともナポリ地方の料理だということに間違いはないと思います。

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プッタネスカソース

この料理のポイントは最初にトマト以外の材料をしっかり炒めて香りを出してオイルに味を移すことです。もちろんにんにくを焦がさないように注意することが大切です。その後トマトを加えてソースを完成させるのが秘訣だと思います。好みで唐辛子を加えたりオレガノを加えると美味しいですよ。パルテノペでは少し太めのスパゲッティで提供していますのでソースとの相性も抜群です。

 

スパゲッティ・プッタネスカ材料

トマト(生またはホールトマト)

黒オリーブ

ケイパー

アンチョビ

にんにく

イタリアンパセリ

オレガノ(お好みで)

唐辛子(お好みで)

オリーブオイル

スパゲッティ