渡辺 陽一 ナポリ料理ブログ

郷土料理を愛してやまないイタリア料理人https://www.instagram.com/watanabe_yoichi_/

トルタ カプレーゼ(Torta caprese)

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カプレーゼと聞くとみなさんあのトマトとモッツァレラチーズの前菜を思い浮かべるのではないでしょうか?それぐらいカプレーゼは今日、日本において知名度の高い前菜ですが実はインサラータ カプレーゼ(Insalata caprese)=カプリ島風サラダの意味というのが正式な名称でイタリア語のサラダの部分を省略してカプレーゼと呼ばれているのです。

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カプリ島 青の洞窟

さて同じカプレーゼでも今日はドルチェのカプレーゼについてお話ししたいと思います。このお菓子はトルタ カプレーゼ(Torta caprese)=カプリ島風ケーキという名称で見た目はガトーショコラの様に見えますが味わいは全く異なります。ガトーショコラとの違いですが、まずこのカプレーゼにはアーモンドがふんだんに使われていることでしょうか、またガトーショコラには少量の小麦粉が入りますがこちらには全く使用されません。アーモンド、チョコレート、卵、バター、砂糖とシンプルな材料でしっとりと焼き上げます。またバリエーションとして白いカプレーゼ(Torta caprese bianca)とかレモンのカプレーゼ(Torta caprese al limone)呼ばれるレモン風味のものも作られています。カプリ、ソレントやアマルフィ地方はレモンの産地ですからね。

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レモンのカプレーゼ

このお菓子の起源について調べてみるとやはり色々な逸話があるようでとても面白いです。その中でも特に私が気に入っているものが二つありますのでご紹介したいと思います。

一つ目はアメリカのギャング アルカポネにまつわる話でそれは1920年代に遡ります。ナポリにルーツを持つニューヨークカモッラとの関係を強化するためにアルカポネは信頼できる手下達をナポリに派遣しました。彼らはビジネスのかたわら観光旅行も楽しんだのですが、カプリ島でその頃一番人気のあったカルミネ ディ フィオーレ(Carmine Di Fiore)の有名なパティスリーを訪れてそこでボスのために特別なお菓子を作るようと彼に命じました。それを聞いたカルミネは驚きと怖さのあまりその特別なアーモンドチョコレートケーキに何と小麦粉を入れ忘れてしまったのです。幸いにして手下達はこのしっとりしたケーキに大満足してくれたのですがカルミネはこのミスがバレないようにとその後も生涯嘘をつき続けるために自分の店でも小麦粉なしのアーモンドチョコレートケーキを提供したとのことです。それが今では世界中で愛されるトルタ カプレーゼとなったという話です。

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もう一つはハプスブルク家のマリア カロリーナ女王(Rregina di Napoli, Maria Carolina d’Asburgo)にまつわる話で18世紀に遡ります。マリア カロリーナ女王はあのフェルディナンド4世(Re Ferdinando IV)の王妃で彼女はオーストリア人でしたので大好きなザッハートルテ - Wikipediaがナポリにないことを知ってかなりのショックだったそうです。そこで何とかお抱えのシェフ達⇒モンズ(Monsù,Monzù)に作らせようとしたのですが当然彼女がレシピを知っている訳でもなく、またフランス人シェフ達も誰も食べたことのないお菓子でしたので試行錯誤を重ねた末に小麦粉を入れないこのドルチェが出来たという話です。

ただここで考えてしまうのはザッハートルテが生まれたのが1814年または1832年とされていることです。そうだとするとマリア カロリーナ女王(1752年-1814年)はザッハートルテを知らなかったことになるのです。つまるところ何が本当の起源なのかは分かりません。

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ザッハートルテ

トルタ カプレーゼ材料

基本の材料:

 アーモンド(皮なし)

 チョコレート

 卵

 バター

 砂糖

その他の材料(バリエーション):

 くるみ

 ココア

 ストレーガーリキュール

 ノチェッロリキュール