渡辺 陽一 ナポリ料理ブログ

郷土料理を愛してやまないイタリア料理人https://www.instagram.com/watanabe_yoichi_/

靴職人風のパッケリ(Paccheri allo scarpariello)

イタリアには○○風、○○職人風という料理が多くあって面白いですね。例えばカルボナーラ(Carbonara)は炭焼き職人風、プッタネスカ(Puttanesca)は娼婦風、ペスカトーラ(Pescatora)は漁師風というように。今回は靴職人風=スカルパリエッロ(Scarpariello)という不思議なネーミングのパスタ料理をご紹介しましょう。

このスカルパリエッロはナポリ語の靴職人(Scarparo,Scarpariello)のことでイタリア語だとカルゾライオ(Calzolaio)です。

この料理のルーツは日曜日に家族が集まって食べた残りのラグー(ナポリ式の)を靴職人が翌日職場に持って行き休憩時間に食べたことに始まります。忙しい合間にパスタを茹でるだけで簡単に美味しい一品が出来るのでそれは重宝したことでしょう。

この料理のコンセプトはトマトソースのパスタに粉チーズとバジリコをたっぷりかけるというものです。では靴職人とチーズの関係は?ということになるのですがそこには当時の事情があったのです。この料理が生まれたとされているスペイン街(Quartieri spagnoli)ではお客さんが靴職人に修理代を支払う際、お金を持ち合わせない時にはチーズなどの食材を代金替わりに置いていったのだそうです。そんな習わしから靴職人たちの工房にはチーズが沢山貯蔵されていたんですね。だからチーズをふんだんに使えたということで靴職人風という名前がついたのだそうです。

しかし時代と共にラグーは生トマトに代わっていったそうです。女性の社会進出に伴い家庭でラグーを作る機会も減っていったことでしょうし、生トマトで作った方がよりヘルシーだからという現代の事情もあるのでしょう。ですから今では靴職人風のパスタというと生トマトを使ったものがメジャーになっています。使われるオイルも元々はラードでしたが今はオリーブオイルで作るのが一般的になっています。これは貧乏人のスパゲッティと同じ理由ですね。人によってはバターを使う人もいますがそれはあまり南イタリアっぽくないです。

この料理に使われるパスタは基本的にショートマカロニが多くパッケリやリガトーニ、ペンネ、ペンノーニ、ズィ―ティなどが人気ですが好みでロングパスタでも作られます。日本ではやはりスパゲッティが人気でしょうか。

Mezzi PaccheriとPaccheri

このソースは作る人によっても様々ではありますが大きなポイントが三つあります。

  • トマトは煮過ぎないで形が残る程度に仕上げること。
  • フレッシュなバジリコを沢山入れること。
  • 粉チーズをたっぷり加えることでクリーミーに仕上げること。

その他お好みで唐辛子を加えてもいいですし私がナポリで習った時のシェフはパンチェッタの細切りを少量入れていました。まあ動物性脂肪があった方がよりコクは出ますからね。その辺のアレンジには特に縛りはないようです。

さてパスタの作り方ですがとても簡単です。まずパスタを茹でます。というのもこの料理はパスタを茹でている間にソースができるほど簡単だからなのです。パスタを茹で始めたらフライパンに潰したにんにくとオリーブオイルを入れて火をつけます。にんにくの香りが出てきたら半分にカットしたチェリートマトを加えさっと加熱したら塩味を調えます。そしてバジリコをちぎって加えたらもうソースは出来上がりです。パスタが茹で上がったらソースの入ったフライパンに入れ再度火をつけてよく和えます。そして火を止めたら粉チーズを加えます。チーズは加熱すると最初は溶けますがその後分離してしまいますので必ず火を消してから加えます。ここでパスタとチーズを和えもしも水分が足らないようであればパスタのゆで汁を加えます。これでチーズが溶けてクリーミーに仕上がります。最後にまたバジリコをちぎって加えます。これで完成です!

チーズはペコリーノを使うのが一般的ですが味が苦手な人はパルミジャーノで代用する人もいますし、ナポリ郊外のヴィーコ・エクエンゼ(Vico Equense)やソレント(Sorrento)産のプロヴォローネ・デル・モナコ(Provolone del Monaco)をおろして使う人もいます。確かにこちらの方がよりクリーミーに仕上がりますね。

このブログを書いていてスカルパリエッロをWeb検索してみると結構な件数が紹介されていました。思いのほかいろんな人が紹介しているんですね。

靴職人でも簡単にできる料理だという話しや、

靴職人の仕事のように鍋底を絶え間なく混ぜるから靴を磨いたように見えるからとか、

美味しくて食べた後のお皿がピカピカで靴を磨いたようだから、

などと色々あって本当に面白いです。

ちなみにイタリア語ではパンでお皿を拭くことをスカルペッタ(Scarpetta)=小さな靴といいます。大昔の人がお皿の上のパンの切れ端を小さな靴に例えたものなのですがイタリア人的な表現の仕方は本当にユニークですね。

 

パッケリの靴職人風材料

チェリートマト

にんにく

バジリコ

粉チーズ(ペコリーノ、パルミジャーノ、プロヴォローネ・デル・モナコなど)

パッケリ(またはリガトーニ、ペンネ、ズィ―ティなどのショートパスタ)