このお菓子の名前は意味が分かりにくいのではないでしょうか。ズッパ(Zuppa)という言葉は一般的にイタリア料理店においてスープと訳されますので、私自身も若い頃はこのお菓子がデザートなのに何故イギリス風のスープなのか意味が分かりませんでした。当時はイタリア料理がまだあまり知られておらず誰も教えてくれる人がいませんでしたから。
さてこれはズッパという言葉がイタリア語のびっしょりと浸すというインズッパーレ(Inzuppare)からきているからでスポンジ生地にリキュールの効いたシロップをたっぷり浸していることから名づけられたのです。ズッパイングレーゼによく使われるアルケルメス(Alkermes)という赤いリキュールがあるのですがイタリアでは古くからトスカーナの修道院で作られたものと広く知られています。しかし残念ながらそれがこのケーキの起源かどうかまでは確認できません。調べてみるとイギリス風と呼ばれるようになった由縁はこのケーキが元々イギリスのリキュールを入れたシロップに浸されていたからという説があります。またイギリスのケーキ、トライフル(Trifle)に似ているからという説もあります。確かにトライフルはズッパイングレーゼに良く似ていますね。
その他の資料によると起源はナポリ共和国の歴史に関連しているというものもあります。1799年にそれまでのイギリス統治から王位に復帰したブルボン家のフェルディナンド1世がホレーショ・ネルソン提督(Horatio Nelson)に敬意を表してパーティーを開き、その場でこのケーキが提供されたとするものなのですが、そのケーキにはアルケルメスではなくてラム酒が使われていたとされています。それ以外にもアラブからイタリアに伝わったという説もあるようです。それはアルケルメスの語源がアラブ語からきているというものですので説得力があるといえます。まあ結局のところ何が本当なのかよく分かりません。
このケーキですがイタリアの家庭でもよく作られているメジャーなもので、地方によってまた作り手によっても様々なスタイルがあります。基本的にシロップをたっぷり湿らせたケーキであればズッパと呼べるので、ある意味縛りはないのです。シンプルに仕上げるものから中にフルーツを挟んだもの、グラスに入れて提供するもの、またズコット(Zuccotto)の様な形に仕上げるものもあります。一般的なのはカスタードクリーム、チョコレートクリーム、生クリームなどを使ってスポンジ生地やサヴォイアルディをシロップで湿らせて重ねるスタイルです。リキュールもアルケルメスやラム酒、ロゾーリオ(Rosolio)など様々です。
ではナポリ風というのはどのようなものかご説明しましょう。ナポリ風はスポンジ生地をカスタードクリームやチョコレートクリームで重ねて表面をメレンゲで覆うというものです。アマレーナチェリーのシロップ漬けやチェコレート、ナッツの刻んだものを入れることもあります。他の地方でもメレンゲで覆ったものを見かけることがありますが表面をオーブンで焼いて色付けたものが多くナポリのそれはサクッとしています。何故ナポリでは表面をメレンゲで覆うようになったのか残念ながら分かりませんが、周りがサクッとして中はしっとりしているので面白いと思います。
ナポリ風ズッパイングレーゼ材料
スポンジ生地
カスタードクリーム
チョコレートクリーム
アルケルメス入りシロップ
メレンゲ