渡辺 陽一 ナポリ料理ブログ

郷土料理を愛してやまないイタリア料理人https://www.instagram.com/watanabe_yoichi_/

溺れダコの煮込み(Polpo affogato)

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今日はナポリでも人気のタコの煮込み料理についてお話ししましょう。ナポリにはタコの煮込み料理がいろいろあるのですが、これがどれもトマトで煮込む調理法ばかりなので仕上がりに大差はないようです。単なる呼び名の違いだけなのかな?と思ってしまいます。トマトを使わない煮込みもあっていいようなものですがそこはトマト好きな国民性なのでしょう必ずと言っていいほどトマトが入っています。ちなみによく見かけるタコのメニューは以下のものです。

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1)溺れダコの煮込み(Polpo affogato)

2)タコのキャセロール煮込み(Polpo in casseruola / Polpo in umido)

3)タコのルチーア風煮込み(Polpo alla luciana)です。

1)のネーミングですがタコがトマトの中で柔らかく煮えたのをタコが溺れたとする表現は面白いですね。ナポリ語のメニュー名は‘O purpetillo affugatoです。

2)のキャセロール煮も基本的には1)と同じような調理法でこれといった縛りはないです。あえて言えばトマトを入れなくてもこのネーミングは使えるということぐらいでしょうか。ただ実際のところ1)も土鍋で仕込むことが多いので結局は同じなのかな?という感じです。

3)ですがこれにはトマトと黒オリーブ、ケイパーを入れるのがお決まりです。このルチーア風という名前はナポリ湾にあるサンタルチーア地区(Borgo di Santa Lucia)に由来していて、その昔この地区ではタコ壺を使ったタコ漁が盛んに行われていたそうです。あの卵城(Castel dell’Ovo)がある辺りです。また茹でたタコを食べさせる屋台がたくさんあったといわれています。そんなことからこの料理にこの地区の名前がついたのでしょう。

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さて私は現地で何度か見たのですが昔からナポリではタコを茹でる時に面白いことをします。それは鍋にコルクを入れることです。まあおまじないのようなものですが庶民はタコが柔らかくなると本気で信じているようでその昔私がレストランでタコを茹でていると掃除のおばちゃんがいつの間にか何個かのコルクを鍋の中に入れていました。そして僕を見てニヤッと笑ったのです!きっと何も知らない外国人の僕だからと教えてくれたのでしょう。そんな時はお気遣いありがとうとサラッとお礼を言っておきました。今では懐かしい思い出です。でもコルクを入れるよりもタコをしっかり叩きつけて筋肉の繊維を断ち切ってから加熱するのが柔らかくする秘訣なんですがね。

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タコの煮込みの作り方ですがお鍋(できれば土鍋)にオリーブオイルとにんにく、唐辛子を炒めて香りを出したところに大きめにカットしたタコを入れます。イイダコや小さいタコの場合はそのままで。タコをさっとソテーをしたら好みで白ワインを入れてその後トマトを加えるのですがここで香り付けのためにイタリアンパセリの茎を入れる人もいます。他にはタコをソテーせずに全ての材料を一緒に鍋に入れて煮るというやり方もあります。あとはタコが柔らかくなるまで弱火でじっくり煮るだけなのですが最初から塩は加えません。タコはそれなりの塩分を持っていることが多いので後で調整します。また弱火でゆっくり時間をかけて煮ることが大切で、好みで黒オリーブ(あればガエータオリーブ)やケイパーを加えます。

現地の言い伝えではタコは自分の水分で柔らかくなるといわれています。すなわちタコはたくさん水分を持っているので煮る時にトマトを入れても水は加えないで蒸し煮にするということなのです。また煮上がるまで蓋を開けないという掟もありますがこれは途中、煮具合を見るために開けてしまうのでなかなか守れません。

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それとこのタコの煮込みには必ずといって良いほどパンが添えられます。パンをさっと炙ったトースト(Crostini)を添えたりパンを素揚げしたもの(Crostini fritti)をタコの下に敷いたりします。美味しいソースをパンに吸わせて一緒に頂く工夫なんですね。またこのタコの煮込みソースはパスタで和えてもとても美味しいです。

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ここまでタコの煮込みの話しをしてきましたが古いレシピを見ているとその昔タコのルチーア風(Polpo alla luciana)というのはタコを茹でてオリーブオイルとレモン汁でマリネしたものだったようです。現在ではそれはタコのサラダ(Insalata di polpo又はPolpo all’insalata)と呼ばれています。いつからルチーア風がトマト煮になったのかはよく分かりませんが、いずれにしてもタコはサラダでもトマトで煮てもどちらも美味しいですね。

今ではなくなってしまった冬の風物詩としてその昔ナポリ中央駅の周辺にタコのスープを飲ませる屋台がありました。スープといってもタコのゆで汁に足の小切れを一本とコショウを入れただけのシンプルなものなのですが、美味しくて身体が温まる素晴らしい文化でした。これも私が初めてナポリに行った頃の懐かしい思い出です。

 

溺れダコの煮込み

材料

タコ

トマト(生・ホールトマトなど)

にんにく

イタリアンパセリ

唐辛子

オリーブオイル

黒オリーブ(あればガエータオリーブ)・ケイパーお好みで