イタリア料理とは?といわれてまず皆さんが最初にイメージするのは、あさりのスパゲッティやピッツァ、カプレーゼといったものではないでしょうか?これってイタリア料理の代表的なものばかりですが実は全てナポリ発祥なんです。実際これらの料理はナポリでもよく食べられていて海辺のレストランではあさりのスパゲッティが一番人気ですしピッツァを毎日のように食べる人も少なくありません。どこの家でもにんにく、トマト、バジリコ、モッツァレラチーズといった食材は毎日のように使われています。でもほとんどの料理ににんにくを使うのに料理がにんにく臭いといったことはありません。それは他の食材を引き立てるために料理のベースに使っているからなのです。
その昔私がナポリに住んでいる時によく耳にしたことで「ナポリ料理は決して贅沢な材料は使わないけどサポリート(Saporito)でしょう?」という言葉があります。サポリートとは「美味しい、味がいい」という意味なのですがこの言葉には素材がいい、調理法がシンプルでいいという意味が隠れているのです。実際ナポリの人たちは葉っぱ食い(ちなみにトスカーナ人は豆食い)と言われるほど葉物野菜が大好きなのですがその調理法はいたってシンプル、ただにんにくで炒めるだけといったものや揚げてトマトソースと和えるだけのものが多いのです。味付けもほとんどの場合が塩だけです。ナポリだけでなく南イタリア全土においてもいえることですが野菜をたくさん食べるということが特徴です。
またトマトの使い方が上手なのもナポリ人の特徴だと思います。たとえが良くないかもしれませんがそれは日本人が醬油を使うのに似ていると私は思います。皆さんが和食を作る時に醤油の量を加減して使いますよね?お魚の煮つけには真っ黒になるぐらいたくさんの醤油を使い八方だしの時にはほんの少量しか加えないと思います。つまり醤油はその味や色を前面に出したくて使う場合と風味付けに使う場合があると思うのです。ナポリ人にとってのトマトは正にその感覚と同じでトマトをたっぷり使ったソースもあればあさりのスパゲッティの様にチェリートマトを何個か加えるだけという使い方もあるのです。その他、夏に収穫して春まで軒先に吊るして自然乾燥させて使うトマト(Pomodorini Piennolo del Vesuvio)があったりとナポリ人はトマト使いの達人です。
ではナポリ料理がどのように発展してきたのかを考えてみますとそこにはナポリが常に他国の支配を受けてきたという歴史的な背景が見えてきます。その中でも特にスペイン、フランスの支配が料理の変革に大きな影響を与えたといわれています。18世紀頃のスペイン系ブルボン家(Borbone delle Due Sicilie)のナポリ王を名乗っていたフェルディナンド4世(両シチリア国王フェルディナンド1世)の時代には貴族たちはこぞってフランス人シェフを雇っておりフランス料理文化がナポリに大きな影響を与えていたのです。その時代の置き土産として現在も多くのナポリ料理がフランス語に由来するものとなっています。
例えばナポリ風ラグー(Ragù)はフランス語の[Ragout]から、ガットー・ディ・パターテ(Gattò di patate)は[Gâteau]から、クロッケ・ディ・パターテ(Crocchè di patate)は[Croquette]から、サルトゥー・ディ・リーゾ(Sartù di riso)は[Sourtout]という様にフランス語からナポリ風の料理名に変わっていったのです。ナポリ料理史はとても興味深いと思います。